巻頭言 Vol.58 No.5 2022
巻 頭 言
医師会活動の継続を期して
安房医師会 会長 原 徹
7月8日 安倍晋三・元首相が凶弾により、67年間の生涯を突然閉じられました。歴代最年少である52歳で首相に就任。「美しい国」を国家像として掲げ、「戦後レジームからの脱却」をその基本方針とし、多くの国民の支持を受け第1次・安倍政権が発足しました。然し御自身の体調悪化により「意志を貫くための基礎体力に限界を感じた」と53歳で一旦首相の座を降りられました。彼の持病は17歳時に発症した潰瘍性大腸炎であるとの事、その後も常にこの疾病と闘われ、治療を続けておられました。幸い病は程なく軽快され、彼の再任を求める声を受け2012年12月には第2次・安倍内閣が発足。その政治姿勢は一貫して国の安寧・発展を願い、基盤としての「安全保障と社会保障のあり方」を問い、その再構築を目指すものでした。翻って安房医師会はその定款に「この法人は、医道の昂揚・医学医術の発達普及と公衆衛生の向上を図り、千葉県民の保健と福祉を増進し、もって地域社会の健全なる発展に寄与することを目的とする」と謳っています。
昨今の自然災害、また新型コロナを始めとする種々の感染症の猛威に晒され、安房地域の安全保障も脅かされてきました。そして地域社会の基盤維持の為に「医療・介護・福祉の機能障害・崩壊を防ぐこと」このためには日常的な危機管理が非常に大切である事を痛感させられています。そして医師会組織がその基盤維持に大きな責任を担う機関である事を再認識いたしました。
ところで私事になりますが、会長としての任期は令和6(2024)年6月の定時総会で終了します。平成14(2002)年、今から20年前に齢50で安房医師会の理事に加わり、2006年からは県医師会理事と安房医師会副会長を兼務、2012年からは県医師会副会長・日本医師会代議員となりました。その後も紆余曲折を経て2018年6月から現在の安房医師会長に選任して頂いた私の医師会の活動歴も残り2年足らずとなりました。
この任期中に次の世代へ会務を引き継ぎ、安房医師会に受け継がれてきた医療等のあり方、即ち医道を伝え、さらには組織の財務基盤を整え医師会活動が持続可能になることを目指します。そして近い将来、我が安房医師会から日本医師会へ常任理事を送り出すことを目標にしています。幸い多くの方々の御支援、御理解でこれまで責務を継続することが出来ました。
現役会長としての最後の2年間を精一杯勤めて行く所存です。また我儘なお願いですが持続可能な組織を継続するために従前にも増して御協力をお願い申し上げます。終わりにこれまで医師会組織を支えて下さった皆様に心からの感謝と御礼を申し上げます。
巻頭言 Vol.58 No.4 2022
巻 頭 言
安房医師会 理事 相正人
理事会に入り二年が過ぎました。初めての経験の中、諸先生方には色々とご指導を賜り、何とか任期を過ごすことが出来ました。会長、副会長を始め理事の方々皆様のこの地域の医療に対する取り組みに真摯な思いを感じました。有意義な二年間でした。特に、この二年間はコロナの問題もあり大変だったと思います。理事になる以前は、医師会活動とは何をしているものかをよく理解していませんでした。医師会における私の主な仕事は、広報・情報システム担当です。ICT(情報通信技術)を利用したWeb会議システムの構築と年6回の安房医師会ニュースの発行、医師会ホームページの管理を行うことでした。医師会活動にいかに貢献するか。そのシステムの一員としてお役に立てればと思います。
コロナ感染が5月下旬になりようやく落ち着いてきました。安房医療圏では、GW前に連日50人近くの陽性者が出ていました。そのような中で「まん延防止等重点措置期間」が解除され、世の中はGWに突入。ニュースによると何も制限がないGWは3年ぶりとかで電車も飛行機も混雑したようです。ウイルスの弱毒化が言われていますが、感染者数、死者数ともに今回の第6波は今までの波の中で最多でした。全国的には、近頃の感染者数はピーク時の約1/5~1/6に減少しており、飲み会、集会も活発になっています。
昨年から、毎週或いは2週間に一回のコロナワクチン会議を安房医師会執行部と担当理事、安房保健所、三市一町の行政の担当部署など多くの職種の方で行っております。昨年11月、12月号の安房医師会ニュースの巻頭言でも言われているように、当地域は県内でも早い時期に高い接種率が達成されました。安房医師会員皆様の地域医療への高い意識の表れと思います。
日本の疫病の歴史を振り返ってみると、奈良時代の735年~737年に「日本で初めての疫病」である天然痘が大流行しています。仏教伝来の飛鳥時代6世紀頃に大陸から持ち込まれ、「天平の大疫病」として日本に拡がりました。死者は100万から150万人に上り奈良時代の朝廷の実力者の藤原不比等の4人の息子も全員天然痘で亡くなっています。治療法は現代で言う対症療法しかありませんでしたが、738年1月にはこの時の流行は、ほぼ終息しました。743年に聖武天皇は、国家の安泰を祈り東大寺の大仏や国分寺、国分尼寺の建立の詔、また墾田永年私財法の制定など、日本の政治と経済、および宗教に大きな影響を及ぼしました。
天然痘がコントロールできるようになったのは、江戸時代末期に蘭学とともに種痘ワクチンが日本に入って来てからです。内服薬はありません。種痘ワクチンは1796年英国の開業医エドワードジェンナーが、古くから行われていた人痘(天然痘)法よりも安全性の高い予防法として牛痘から開発しました。WHOは1958年に世界天然痘根絶計画を決議しますが、この時世界の発生数は2000万人、死亡数は400万人と推測されています。各国で、新たな感染者とその周辺の囲い込みで種痘ワクチンを行い、その効果が発揮され1980年5月に世界根絶宣言となりました。
コロナ禍においては、Go to事業や持続化給付金などの景気政策が行われています。また診療ではリモート診療、会社や団体ではリモート会議やリモートワーク、スポーツではリモートマラソンなどが出てきました。ネットの普及とコロナ禍により、いままでとは違う新たな生活様式が始まりました。一つの病気によって、今後も社会はどこまで変化するのでしょうか?
天然痘に人類が打ち勝ったのには、日本人の活躍がありました。熊本県出身の医師蟻田功氏です。WHO天然痘根絶対策本部長を務めた方です。彼の言葉を最後に紹介したいと思います。
「国は協力しあえるものだ。国際間には、紛争、戦争、無理解、憎しみ、差別、勢力争い、宗教の違い、政治の違いなど、色々な協力を妨げる問題があります。しかし、天然痘の根絶では、それらの違いを越えて皆が協力しました。」
現在の私たちを取り巻く世界情勢にも、必要な言葉ではないかと思います。
巻頭言 Vol.58 No.3 2022
巻 頭 言
安房医師会 理事 小林 剛
この原稿を執筆している4月上旬現在、国内の新型コロナウイルス感染者数は下げ止まり、第7波が懸念される状態にあります。世界に目を向ければロシアがウクライナに侵攻し、世界経済統合というグローバル化は半ば強引な形で終焉を迎えたと考えられます。他国に依存しない地域内統合へのシフトが本格的に始まるのではないでしょうか。まさに全世界が分断と混迷の中にある状態です。振り返れば2019年9月5日「令和元年房総半島台風」と名付けられた台風15号から安房地域での災害は始まっていました。復興に向けて踏ん張っている最中、2020年1月に武漢より新型コロナウイルスが国内にもたらされます。2月にはダイヤモンドプリンセス号を皮切りにして、以後長きに渡り未知のウイルスとの闘いを強いられることになりました。「1年延期からの東京オリンピック開催」という象徴的なイベントがあったにも関わらず、依然としてトンネルは暗く長く、出口は遠くにあります。わずかに光が見えているのか、それとも錯覚なのか目を凝らしている状態です。
新型コロナウイルスのパンデミックにより国内の死者は約3万人に到達しようとしており、医療介護現場では「災害医療」としての対応を余儀なくされました。確かに新型コロナウイルスにより人命が失われることは極めて遺憾なことです。しかし、このウイルスがもたらした最も大きな影響は「人間の生命が失われていく」ことよりも「人間のつながりが失われていく」こと、そしてそれに気がつかないことではないかと思っています。今まで当たり前であった、顔を合わせて素顔で笑いあうこと、共に食事を食べてお酒を飲み本音を語り合うことが簡単には出来なくなってしまいました。私たちはそれでも生きていくことが出来ますから、自らが意識しなければつながりは簡単に薄れてしまいます。無意識のうちに他者に無関心になり、ともすれば負の感情を抱きやすくなってしまう。新型コロナウイルス感染症による「社会学的視点から見た人間の変容」について、今後様々な解釈が生まれてくるでしょう。
それとは別に新型コロナウイルスは、止まらない東京一極集中という社会構造の中で、過度な人口密集の負の側面を教えてくれました。大都市では第5波時にほぼパニックと言えるほど医療の混乱を来していましたが、安房地域では幸い人口密度の低さに加え原 徹会長を中心とした行政との強固な連携体制、各医療機関の真摯な対応により在宅死者を出さずに乗り切ることができました。先日相模原市みその生活支援クリニックの院長である小野沢滋先生に「第5波で相模原市に起こったこと」をご講演いただきました。かつて亀田総合病院在宅医療部の部長をされていた小野沢先生に「安房は天国だ。あらゆる医療機関が地域の事を考えている。」と言って頂いたことを今でも覚えています。改めてこの地域で医療介護が出来るありがたさを感じ、会員の皆様方に感謝を申し上げたいと思います。
医療介護を営むものとしてはこの上なく恵まれている安房地域ではありますが、この地域社会の全体を見てみると、生産年齢人口のみならず高齢者人口すら低下する「超高齢化過疎社会」の道を突き進んでいるのが現実です。教育、産業など地域の活性化に必要な変革は、はるか以前から求められています。移住者を含めこの地域で生活している様々な職種の方々がこの地域を活性化したいと奮闘しておりますが、中々大きな結果に結び付いていません。今後異業種の方との触れ合いの中から、地域活性化のために医療介護分野が出来ることを模索してみたいと思います。
最後に私が感銘を受けた航空会社ピーチの機内誌広告をご紹介させて頂き、結びと致します。少しでも早くこのトンネルから抜け、安房地域に火が、いえ炎が灯りますように。
「世界は驚くほど変わった。これまでのルールは過去のものになり、常識は非常識になった。けれど、大切なものは驚くほど変わらない。話す、笑う、触れる、感じる、愛でる。当たり前だったことが、どれほど貴重なことかを痛いほど感じることができた。だからこそ私たちは大切にしたい。距離に負けることなく、顔を合わせて話すこと、五感で楽しむこと。心の赴くままにリアルな体験を重ねること。私たちは、考える。画面越しにつながれる時代だからこそ、リアルな価値は高まっていると。アタマよりココロが求めるものを、画面を隔てては味わえない驚きを届けたい。逆風を恐れず進もう。向かい風が強いほど、高く飛べるのだから。」
巻頭言 Vol.58 No.2 2022
巻 頭 言
安房医師会 理事 福内正義
今回巻頭言を担当させていただきます病診連携担当理事の福内です。コロナ禍になり3度目の冬を迎えることになりました。この2年間で生活や会議の様式、働き方等様々な変化があったと思います。コロナウイルスは人から人への感染が唯一の伝播方法であり、デジタルデバイス等を通じて感染することはありません。国も電話再診やオンライン診療を推奨しています。私の勤務する安房地域医療センターでもデジタル化がだいぶ進み、ほとんどの会議や講演が対面とwebのハイブリッド方式で行われるようになりました。ちなみに安房医師会の理事会もハイブリッド方式でおこなわれております。
さて皆様は北京オリンピックをご覧になりましたか。おそらく全くみなかった人のほうが少数派ではと思います。一日あたりのコロナ感染者数が日々更新というなか2月3日に北京オリンピクの開幕をむかえました。この原稿は2月初旬に書いており、今大会日本人第一号のメダルをスキーモーグルの堀島行真選手が獲得したという朗報もありました。
今回のオリンピックを観ていてスポーツの世界でもデジタル技術の進歩を感じます。スキージャンプ競技では複数台のカメラで着地までの距離を正確に計測し、また風速や風向に応じて加点や減点が自動的に行われます。フィギュアスケートでは6台のカメラをリンク周囲に設置してジャンプの高さや距離をリアルデータとして測定しています。この技術は前回の平昌から導入されているようです。また、今大会はじめてスピードスケートのスタート時のフライング探知に、画像追跡システムが活用されるようになりました。このような技術は、まだ特殊で高価なものかと思われます。将来的により簡単に多くの人が利用できるようになれば、オンライン診療等にも活用できるのではとおもいます。私は整形外科が専門ですので関節の動きや四肢の変形、腫脹などが、オンラインで画像解析できれば、かなり正確な診断ができるのはと考えております。もちろん内科的な疾患等に関しては、画像解析だけでは診断できないものも多くあると思います。
海外の整形外科では初診からオンラインを導入し、患者さんは医師やPA(フィジシャンアシスタント)の問診をうけ、必要な検査のみを病院に受けにくるといった事がはじまっています。検査結果を再度オンラインで説明し、手術が必要となったら術前説明をオンラインで行い入院日を決定する。そして入院日に初めて担当医と対面するといった流れのようです。オリンピックで使われているデジタル技術が応用できればさらに診断が正確になり、術前に行う検査を減らすことができるかもしれません。
オンライン診療は自宅にいながら診察をうけられ、とくに移動手段がすくない高齢者にとっても都合の良い面が多くあると思われます。もともとデジタルデバイスにあまり慣れていない高齢者にどうすすめるかなどまだ課題はありますが、高齢化のすすんでいる安房地域でもメリットは大きく、今後の拡大に期待したいと思います。
巻頭言 Vol.58 No.1 2022
巻 頭 言
安房医師会 会長 原 徹
令和の和暦も既に3年が過ぎました。この間、災害や感染性疾患などが発生し、平時とは些か対応が異なる事案が重なりました。このため本組織の運営面でも不安と戸惑いが拭いきれない状態が続きましたが、それでも何とか組織活動を維持することが出来ました。その礎となったのは“地域住民をはじめとして関係諸機関の皆様、そして会員ならびに役職員諸氏のご理解ご協力である”と心から感謝しております。この様な混乱期に事務局の転居も重なり、さらに毎週の様にコロナ対策等の話し合い、各種会合・調整も行われましたが、この難局を乗り越えることにより安房地域での職域間、組織間の連携が従前よりさらに円滑、ならびに強固になったと感じています。翻って昨年11月には一旦、急激に新規感染者数が減り安心していましたが、残念な事にその直後に新たな変異株が出現、海外からの入国が全面的に制限された状態にも陥りました。そんな中で一番大切なものは人々の精神面での安寧・不安の払拭ではないかと感じています。顔の見える連携・意思疎通があれば不安を減じた状況下での相談や依頼も容易であり、一方医師会からの支援・協力も円滑に行うことが可能となると思います。
ところで皆様は何を拠り所・生き甲斐にされていますか?度重なる不安や危機から“生きる目標”を失っていないでしょうか?こんな時代に“欲”を持つことは品が無い事と言われそうですが、私は今こそ“欲”を掲げ前進する時だと感じています。現在放映されている朝ドラ・come-come-everybodyの主題歌名は【アルデバラン】、これは“おうし座”のα星の名前で、アラビア語では「後に続くもの」の意味だそうです。同じ“おうし座”のスバル【プレヤデス】の後を追う星であり、冬の夜空で“おうし”の目の部分に位置し、赤橙色に輝いています。その歌詞の一部を年始にあたりここで紹介させて戴きます。
『きみと私は仲良くなれるかな? この世界が終わるその前に きっといつか儚く枯れる花 今、私の出来うるすべてを 笑って笑って愛しい人 不隠な未来に手を叩いて 君と君の大切な人が幸せである そのために祈りながらsing a song 』(森山 直太郎 作詞・作曲)
新年に私の掲げる“欲”は『関係する愛しい人々に笑ってもらい 不隠な未来にも屈せずに大切な人々が幸せになること』です。これを本年の大きな“目標・欲”として掲げて活動したいと思います。
煌めくアルデバランを見上げて・・・・・。
巻頭言 Vol.57 No.6 2021
巻 頭 言
コロナ禍における安房医師会のチーム力
安房医師会 理事 原太郎
コロナ禍から見えてきた医療体制の課題
デルタ株による新型コロナ感染症が猛威を振るった今夏、しばらく静かであった安房地域においても感染者は爆発的に増加し、都市部では医療体制の崩壊から多くの在宅死を招いた。その後、ワクチン接種が進み「第5波」は一旦収束したが、新型コロナウイルスによる非常事態は国や自治体が抱える様々な課題を浮き彫りにし、組織のリーダーや、それに関わる組織の能力が一層問われるようになった。国のコロナ対策をみると政府と自治体、厚労省などいくつもの指令系統が併存し、統一された方策が示されない状況の中、感染対策やワクチン接種において、現場が難しい判断を迫られる場面もあった。千葉県の体制をみても県医師会、千葉大学病院、県立病院、民間病院の医療連携体制は十分とは言えず、危機管理において、司令塔の一元化、医療体制の整備が極めて重要であることを今回再認識した。
コロナ禍における安房医師会の活動
今回のコロナ禍において、安房医師会は、会長を中心に執行部、各担当理事、医師会員が一丸となり、感染対策からワクチンの接種体制の構築、クラスター発生施設の医療支援、在宅療養者の管理体制の構築へと常に地域医療のために迅速かつ献身的な活動を行ってきた。コロナを巡る様々な問題は、週単位、時には日単位での対応を迫られる厳しい状況であったが、安房医師会では整った医療連携体制と一元化された指示系統によって臨機応変な対応が可能であった。
安房医師会の強みは、理事が亀田総合病院、館山病院、安房地域医療センターなどの地域の基幹病院とクリニックの医師で構成されており、有事に際しては、医師会を中心として司令、統制が一元化されていることにある。そのため、コロナ禍においても地域の医療を支える各医療機関が常に連携し、協力体制が構築できた。そして、安房医師会のもうひとつの強みはチーム力にある。安房医師会の活動は会長、執行部が先頭に立って行っているが、決してトップダウンではなく、皆が自由に意見を出し合い、理事それぞれが担当分野を超え協力し、チームとして動いている。非常時にはチーム内での情報共有が必要不可欠であるが、今回のコロナ禍では、これまでのメールや電話による情報交換だけでなく、各理事がラインを通じてリアルタイムに情報を共有することが可能となり、様々な状況下で迅速な対応に繋がった。医師会ラインでは日々のコロナ感染状況やワクチン供給体制、各会議の内容、時には身近な話題や日常の写真など、一定のルールのもと、意見を発信することができる体制にあり、医療情報の共有だけでなく、それぞれの理事の意外な人柄や思考を知るきっかけにもなった。非常事態時にはラグビーのone for allの精神をもったチーム力が大切であるが、安房医師会はコロナ禍を経験したことで、互いに協力し合う精神が培われ、より強固な組織力を得たと感じている。
行政との地域医療連携体制
非常時の医療体制には行政との密な連携も極めて重要である。安房地域では、コロナ感染の拡大以降、行政を交えてコロナ対策会議を毎週開催してきた。会議には安房医師会執行部、理事の他、4市町の行政、保健所職員など多くの職種の方々が参加する形で、ワクチン接種の体制作りから在宅療養者の管理方法まで、ひとつひとつの問題点について議論を交わし、解決策を講じてきた。コロナの感染状況やワクチンの供給状況が変化する中で、多業種が連携するということは一筋縄ではいかないこともあり、行政と医師会で対応をめぐって意見がぶつかることもあったが、それぞれの立場の違いを理解し、常に行政の意見も交えて協議を重ねてきた。このコロナ対策会議を通して医師会、行政間でお互いに顔の見える関係が築かれ、強固な連携体制が形成されたもの確信している。現在の安房医師会が全国地区医師会のなかでも組織力の強い素晴らしい医師会になっていることを誇らしく思うと同時に、この安房医師会は先人の理事、会員の努力によって発展し、引き継がれてきたものであり、敬意を表したい。
これからの安房医師会の役割
新型コロナウイルス感染症という非常事態は、地域医療のあり方、医師会という組織の重要性を改めて考えさせられるものであった。コロナ禍と異常気象の中で、地区医師会が担う役割は益々増えていくものと思われる。非常時には地域の基幹病院、行政との連携は必須であり、今回コロナ禍で培ってきたチーム力を活かし、長期的なビジョンを持ちつつ、状況に応じて柔軟に対応できる地域医療体制を整える必要があると考えている。自然豊かな安房の住民の健康を守り、皆が不安なく安心して暮らせる地域社会を作ることが我々安房医師会の役目であり、私自身の原動力にもなっていると今は強く感じている。
巻頭言 Vol.57 No.5 2021
巻 頭 言
命への投資
安房医師会 理事 松永平太
25年以上前、南房総の地に大学病院と匹敵する大きな病院があり、そのために医療費が膨らみ、社会保障負担で地域が潰されると言われていました。しかし、25年経った現在、逆に地域創生のモデル地域となっています。その病院のおかげで命の安心安全が日本一になっており、若い世代の働く場となり地域経済の支えとなっており、地域にとってなくてはならない存在になっています。医療が地域の大きな産業になっているのです。
世界一の超高齢社会である日本で、若者の10倍以上の医療費を使う高齢者が増えれば、当然医療費が増えるのは当たり前です。しかし、医療費が増えれば医療保険が破綻し、医療崩壊し、日本が沈むという論調が幅を利かせているように思えます。その論調は間違っていると私は思います。間違った論調の結果、過剰な医療費抑制政策がまん延し、薬代を過剰に削られ創薬しづらくなり、人員が過剰に削られて医療現場は疲弊しています。私達は、命への出費を節約しているのではなく、ケチっているという病識を持つことが大切でしょう。
今から4年前、給料の半分を税金でとられ、残った半分で消費税25%を払いながら、世界一幸せを感じる国・デンマークへ行って来ました。デンマークは、教育費、医療費、介護・福祉費がかからないかわりに、高い税金を負担しております。デンマーク人は、負担した税金は戻って来るから良い!そして、国民である自分自身が決めているのだからと笑顔で答えていました。デンマークで学んだことは、国民は必要な負担は納得し、頑張ることです。
命への出費は、命の安心安全のためであり、未来への投資でもあります。社会保障費が膨らめば国が衰退すると言う人がいますが、本当にそんな国があるのでしょうか。私の知っている限りでは在りません。逆に、社会保障の進んだ国ほど豊かになっています。超高齢社会で高齢者が増えれば医療費が増えるのは当たり前で、国民の負担が増えることは仕方のないことで、国民も納得せざるをえません。日本の医療保険は、潰れることはないです。
新型コロナ禍において、治療薬が無いだけでこれほどまでの萎縮した世界になってしまいました。麻疹が集団免疫をつけるのに5000年ほどかかったことを思えば、新型コロナが落ち着くのに数年で済むはずがありません。しかし、新型コロナにはワクチンがあります。命を守る唯一の方法は、ワクチン接種しかありません。ですので、強くワクチン接種を勧めます。そして、治療薬とワクチンの存在にもっと感謝し、製薬会社を尊ぶべきでしょう。
新型コロナ感染症は、「大切な人と人とがつながる」ことを避けなければならない病気です。人はつながることで支え合い、助け合い、優しい社会が生まれます。「人」という文字には、まさに人と人とが支え合う意味合いが入っております。新型コロナ感染症との闘いは、夢、未来への挑戦と言うこともできると思います。私自身、新型コロナに負けずに東京オリンピックを開いて良かったと思います。出歩かず、自宅でゆっくりと家族でテレビ観戦をし、たくさんの夢、未来への力をもらうことができました。よかったです。
私達は、もう少し、命を守るために負担しませんか。
今の日本、負担ばかりを気にして、貧乏になっているような気がします。日本には世界一の医療保険があるという誇りを持ち、節約の観点を持ちながら、豊かな日本を創りたいものです。
命への負担は、今を守り、未来への投資と私は考えます。
巻頭言 Vol.57 No.4 2021
巻 頭 言
地域のさらなる飛躍へ
安房医師会 理事 亀田俊明
この度、初めて安房医師会ニュースの巻頭言を書かせていただくこととなりました。
3年前に安房医師会の理事に就任させていただくまで、恥ずかしながら、私自身医師会という組織をあまり理解できておりませんでした。それまで勤務医としてさまざまな医療機関を転々としておりましたので、そもそも医師会という組織との関わりが薄かったことと、正直あまり良い印象を持っていなかったというのが正直なところです。そのため就任時にはとても不安だったことを覚えています。
しかし、いざ安房医師会に関わらせていただくと、自分の知見の狭さを大いに反省することになりました。
もしかしたら安房医師会が特別なのかもしれませんが、地域への深い愛情、かかりつけ患者に対する熱い情熱と責任感、そして医療機関同士お互いを思いやり、支え合い、尊敬し合う関係など、これまで自分が思っていた医師会像とは全く異なっていました。
医師会が果たしている役割は非常に大きく、診療のみならず、健診、教育、災害対応、地域連携などなど多岐にわたり、特にここ1年は新型コロナウイルス感染症対応でも病院-診療所-保健所-各施設-市町村などとの連携を調整する重役を背負ってくださっています。
コロナ対応で物品が不足していると相談した際には、先生方の所も十分ではなかったと思いますが、できる限り優先して補充してくださいました。また、コロナ患者受け入れ病床確保のため、一般病床を急遽空けなければならなくなったことを相談させていただいた際にも、安房医師会より近隣の医師会にまでお声をかけて下さり、たくさんの転院患者を引き受けていただき、無事体制を整えることができました。
このような素晴らしい連携が取れる安房医師会の会員であることを、現在は誇りに思っております。これから人口減や過疎化が進むと言われている当地域ですが、このままずるずると荒廃していく場所とは到底思えません。
海と山それぞれの豊かな自然に囲まれ、温暖な気候で生活コストも安く、都心までも2時間圏内。そして何より、これだけ安心できる医療体制が整っている土地は他にないと思います。安房医師会を中心にこの強い地域医療連携を活かし、さらに南房総の魅力を高めて行けば、必ず明るい未来が待っていると信じています。
巻頭言 Vol.57 No.3 2021
巻 頭 言
自助の精神
安房医師会 専務理事 石井義縁
鬼滅の刃ブームである。とは言っても小生は観たことはないが、周囲から感動的だったと聞く。この物語は、目標をもって頑張れば必ず達成できるという精神が感動を呼んだらしい。
明治維新は西洋の文化・文明を積極的に取り入れ、半ば無理やりに自国を発展させる変革であった。それと同調するのが、福澤翁の「学問のすすめ」であろう。これは、人々が実学を修めることによって、現実における人間の不平等を是正し、平等な社会に近づくことを求めることとされる。この反面、古来の精神で反政府的な行動にでて抹殺された代表的人物が西郷隆盛である。この流れが良かったのかそうでなかったのかは、歴史学者の仕事であるが、この流れによって、日本人に「自助」の考えが生まれ、財閥の力が薄れた。日本は、西洋に追いつけと目標を立て、ヨーロッパやアメリカに使節団を送り技術を習得し、近代化させる方向に舵をきった。天皇制で従順な庶民もそれに従い、日々働き続け頑張った結果、世界トップクラスの近代国家に成長し、貨幣価値も絶大な信用を得るようになった。従って、今でも何かにつけ保障せよという、昔から今も大国に頼っている半島の国々は、近代国家をいち早く成し遂げた日本の精神と相反するのは仕方のないことであろう。昨今、日本もミニマムインカムとやらで、働かなくても最低限の生活ができるように保障するといい公的資金で賄うとされている。これがダメとはが言わないが、日本人が、ちょっと前に持っていた自助の精神はどこへ行ってしまったのだろう。努力すれば報われる精神はどこに行ってしまったのか。我々の仕事は、自助の精神で成り立っていると思う。特に新型コロナ感染症病棟で働いている医療従事者は、自助精神の極みであろう。よって公助を強く求める人に対して、違和感を覚えるのは、私だけではないのではないか。
昨年から、新型コロナの影響で、ほとんどの人が何もかも経験したことのない日々を送っている。政府からは、セーフティネットとして色々な補助金がでているが、これこそ公助であり、現状況ではやむなしである。2月17日に、日本でも先行接種のワクチンの接種が始まり、当地域でも3月中旬に医療従事者優先接種が開始された。ワクチンの供給不足もありまだまだ先は見通せないが、今年中には、自助にて生活が回復できることを願うばかりである。
余談だが、福澤諭吉は、緒方洪庵塾で学んだ。言うまでもなく、緒方洪庵先生は医者である。福澤諭吉は、洪庵先生に相当気に入られたようだが、医者を志す仲間に囲まれていたにも関わらず、医者にならなかったのが個人的にはとても不思議でたまらない。
巻頭言 Vol.57 No.2 2021
巻 頭 言
千葉県知事選挙について思う
安房医師会 副会長 鈴木丹
まず初めに、これだけは明言します。特定の候補者の選挙応援ではありません。
2019年9月の房総台風と10月の台風19号そして、2020年3月からのコロナ禍で貴重な体験をし、他県の知事の政策立案と実行力を観ました。知事と県行政が協力して行動すると、地域住民や地域医療がどれ程救われるか痛感しました。
房総台風の翌日に3市1町の行政、保健所、安房医師会、救急医療施設は連携して対策本部を設置し、被害情報・避難情報の情報交換を行い、対策方針を決めました。DMAT 待機要請・DMAT 要請・県知事に自衛隊の災害対策派遣要請 等です。ライフラインの切断(停電と断水)は深刻な問題でした。
獅子奮迅の活躍をしている当時の保健所長に、何も知らなかった私は「何故、給水車と発電車の配備要請を県の行政機関に要請しないのですか。」と尋ねました。所長は「政令指定都市の保健所長ならば、もう少しの権限がありますが、県から派遣されている私には、その権限はありません。」と、返答されました。
後日私が調べたところ、県の健康福祉課には給水車や発電車は数台しかなく、数十台の給水車や発電車は県の総務課の管理で、県の決定がなければ1台も動かせないとのことでした。更に、健康福祉課は毎年多額の予算を計上していますが、災害時の予備予算が殆どないことも判明しました。
そして、2020年3月からのコロナ禍です。コロナウイルスの予防接種が外国で始まりましたが、日本では早くても2021年3月頃からと思われます。ここからが正念場で、国民の約70%以上の方が抗体を獲得してコロナウイルス感染が鎮静化するのに数年かかると言われています。
不思議なのは、千葉県以外の知事からは、非常事態宣言の必要性とか感染レベルの変更や対策方針をマスコミを通じて聞けますが、千葉県知事からは殆ど何も聞けません。
私は今回の千葉県知事選挙について思想、宗教、支持政党に関係なく、
1、630万人の千葉県民の将来を自らの考えで政策立案できる
2、危機管理能力に優れたリーダー
3、現場を重視する政策
4、コロナ感染を含む疾病対策
以上の事を真摯に受け止め、実行できる方を次期千葉県知事にと思います。
今回の巻頭言には賛否両論があると思います。私は安房医師会と安房郡市の住民だけでなく、千葉県の将来についても良いと思い投稿しました。
何卒宜しくお願い致します。