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公益社団法人 安房医師会

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巻頭言 Vol.48 No.5 2012

2012/09/10(月)

安房医師会専務理事 青柳 和美

 ロンドンオリンピックも終了しました。 皆さんも、朝早くから夜遅くまでオリンピック競技に夢中になり、きっと寝不足になられたとお察しいたします。そんなオリンピックの最中に、いつの間にか消費税値上げ法案が可決。そして、オリンピックメダル獲得に躍起になり、国民が国家主義的になっている時に、竹島、尖閣諸島の領土問題が起きております。
 ところで、私はその昔、スウェーデンで留学生活を送ってきました。当時のスウェーデンの消費税は23%でした。しかし、あくまでも感覚的にではありますが、食料品は日本より安く、衣料品など日常品は日本で買うのとほぼ同じ印象でした(内税だったので消費税を払っている感覚がなかった?)。給料の安い研究者生活では、消費税の安い日本の方が遥かに暮らしにくいように感じました。日本の消費税も、10%ではまだまだ足りず、近い将来に20%を突破するとも言われております。現在の消費税5%でもスウェーデンと日本では同じ負担感なのに、この先消費税がスウェーデンなみになったら我々の生活はどうなってしまうのでしょうか?  話は変わりますが、保険医療に関しては医療施設が受診者から消費税を取ることは出来ません。しかし、我々医療施設が薬品、検査装置、施設設備などを購入する際にはしっかり消費税が掛かります。従って、診療所よりも多くの機器、備品を扱う病院施設の方が遥かにその金銭的痛手は大きくなるかと思います。各医療施設での経営努力と言う言葉で消費税問題は片付けられてしまうのでしょうか?
 安房医師会では、2012 年4 月から間宮聰新会長での体制の下、近々の問題としては、より良い住民検診システムの再構築、予防接種の対応に関し、各担当理事を中心に、これまで以上に行政と協議・連携を密にしております。また、医師会主催の学術講演会内容の充実、平成25年度からの安房医師会公益法人化を目指し尽力しております。さらに、長期の問題としては、高齢化する団塊の世代への対応として、地域の医療供給体制を変更しなければなりません。15 年後(2027 年)の死亡者数は、現在の2倍になると推定されています。現在、千葉県では死亡者の93%は病院で亡くなっています。しかし、死亡数の増加に応じた病床数増加に期待はできず(医師、看護師不足と財政危機)、さらには、もし、医療施設を増床しても20 年後には、また死亡者数が減っていくのですから、病院以外での看取りを検討して行く必要があります。安房地域では、高齢化率が既に高く、また人口増加がない分、15 年後の死亡者数に大きな変化はなく、現在と同じ約1万人/年と推定されています。だからといって、この地域でこれまでと同じ医療を続けられるかは、甚だ疑問であります。需要と供給のバランスから、医療従事者が、益々都会に流れ出てしまうのではないかと考えられるからです。全国の市町村の多くが、財政的に夕張市化している現在、行政からの財源を当てにできる時代ではなくなってきました。今こそ、医療現場を司る4師会(医師、歯科、看護師、薬剤師会)だけではなく、行政、厚生業務を担う全ての業種、並びに住民がまとまり、これからの安房地域の地域医療について考えていく必要があると思われます。他市町村の出方、様子を見るのではなく、安房地域としていち早く、手をつけて行こうではありませんか。これまでの既得権等については、白紙にして検討する事態も起こるものと考えます。枯渇した財政を補うのは、皆様の英知しかないのですから…。
 医師会の先生方の、絶大なるご支援をよろしくお願い申し上げます。


巻頭言 Vol.48 No.4 2012 社会規範の再構築を

2012/07/10(火)

社会規範の再構築を

安房医師会副会長 原 徹

 館山市でクリニックを開設してからこの6月で15年が過ぎました。それ以前の二十数年間は大学病院や所謂大病院と言われる多くの病院で勤務医として働き、最新の技術や薬品、さらに精密な検査などを駆使して診断・治療をすることが良い事であり“不十分な検査や治療は問題である”との思いと、一方では過剰になりがちな検査や治療に対する疑問・反省が心の中で凌ぎあう状況にありました。いざ自分で医療施設の運営を始めてからは医療提供制度が健康保険制度の保険医療養担当規則をはじめとして様々な制度を遵守することで成り立っていること。そして我が国の社会保障制度の根幹をこの医療保険制度が担っている事、また社会保障を担う医療保険以外の各種制度の仕組みとその問題点を学ぶ機会に恵まれました。その上で医療や福祉・介護は人間としての尊厳や、基本的な人権など“人として生きる事の本質”に深く関わる分野であること。そして同時に極めて個人的な問題でもある事から特別な配慮が必要であることを学びました。然し現実では同じ病気でも不安・心配や要求・要望の度合いは人様々であり、特に前者の払拭には何が必要かと悩む毎日でもあります。子供の教育と同様に物を与え(薬を処方する)、検査で安心させる行為は往々にして要望が膨らみ際限が無くなり、却って不安・不信を増長する事も多々あります。同時に当然医療費と言う必要経費が発生します。この特殊な状況下で“医療はサービス業であり、患者さんは消費者である”との見方を持ち込めば患者さんにサービスを提供すること、即ち不安を払拭し要望を適える為に医療行為を行う事が消費を拡大することになります。また情報の氾濫、開示の促進等により不安・不満を煽られる現代社会では“医療と言う消費を加速すること”が進み、その結果“市場としての医療”はその規模を拡大することになります。この理由から“医療や介護を産業として見做し、民間の活力を利用しさらに発展させる事が良い”とのご意見もありますが、冷静に考えればそれに必要な費用を何処から賄うのか?との疑問が生じて来ると思います。戦後急成長を果たした国の経済は現在その成長を止め、社会制度として重要な基盤となった国民皆保険制度も50年の歴史の中で様々な問題が生じています。医療を消費として考える事無く、皆保険制度を社会の安全保障制度の大切な基盤として守る事が今こそ求められているのではないでしょうか? 国の防衛や警察・消防と同様に医療も体の不具合が生じた際、即ち“有事の際”に確実に機能する社会制度として位置付けるべきものであると思います。然し“極めて個人的な問題である医療を公的な制度で運営する”為には更なる相互理解と互助、また同じ社会に共に生きる為には“社会の基本となる共通規範の再構築”が最も重要である事を常に心掛け、今後も精進したいと考えています


巻頭言 Vol.48 No.3 2012

2012/05/10(木)

安房医師会会長 間宮 聰

 この度、平成24年3月27日に開催された第141回安房医師会定時総会において、安房医師会長にご推挙され4月から就任しております。平成18年から6年間会長を務められた宮川準会長からバトンを受け、新たな船出をするのですが、会長に就任してみないとわからない色々なことで大わらわです。行政や各方面からのご挨拶、ご依頼が殺到し、医師会の会長としての前会長からの業務の引継ぎや、旧医師会病院の解体工事についての業者との相談、医師会の理事の役割分担の決定、今後引き継ぎ解決すべき諸問題の確認、安房医師会の今後の方針の決定などやらねばならないことがたくさんあります。責任の重大さを痛感し、身の引き締まる思いです。幸い経験豊富な原、小嶋両副会長や有能な8人の理事が就任し、協力していただき私としても心強い限りです。
 現在、私が今後の安房医師会にとって大切であると考えている事柄を挙げてみます。まず第1は、平成25年11月末までには完了が必要な新公益法人移行に向け、安房医師会は平成25年3月末日頃に公益法人としての認定を受けたいと考えています。公益法人取得には総収入に対し、公益目的事業比率が50%以上という規制があるため、これをクリアーすることと、遊休財産の処分をすることが必要なので、平成23年11月の第139回臨時総会で承認いただいた、旧安房医師会病院や看護専門学校に関連した資産の処分を事故やトラブルなく行いたいと考えています。第2に、在宅医療の推進を目指したいと思います。
 この4月の診療報酬改定において、超高齢社会を乗り切るために在宅医療が重点分野としてあげられました。病床数は抑制策が取られている中、平成25年には団塊の世代が75歳に達し、死亡者数も急増が予想され、終末期のケアや看取りの場所が不足することが予想されます。そのため、患者宅や特養での看取りを促すための施策が盛り込まれています。高齢化率の高い安房の地域こそこの国の方針にそった在宅医療の推進が必要ではないかと考えます。そのため会員の皆さんに、往診(訪問診療)を今まで以上に取り入れていただきたい。救急医療は亀田総合病院や安房地域医療センターを中心に行い、在宅医療は機能を強化した在宅療養支援病院として各支部に1から2箇所なっていただきそこを在宅医療の中心として会員とのネットワークを形成し、安房の救急と在宅医療の分担を行うようにするべきと考えます。第3に、平成24年から安房医師会は総合検診事業から離れたが、今後の住民検診をどのようにするかを行政と模索、検討する必要がある。近日中にワーキンググループを立ち上げ検討する予定です。最後に安房医師会の運営の基本として、会員に情報をくまなく開示し、いろいろご意見を伺いながら、ご協力をいただきすすめていこうと考えていますので、会員の皆さん、行政の方々、および関係諸団体の方々のご協力をお願い致します。


巻頭言 Vol.48 No.2 2012 年度末に思う事

2012/03/10(土)

安房医師会専務理事 小嶋 良宏

 平成23年度もいよいよ終盤に近づきつつあり、この3月の総会では理事の改選がおこなわれることとなっている。4月からは新理事を迎え、新たな理事会活動を行っていく訳であるが、新年度に引き継いでいくいくつかの懸案事項について記してみたい。
 はじめに、1月24日の臨時総会で可決された旧医師会病院、旧看護学校の土地の件である。宮川会長、堀税理士のご尽力により、セブンイレブン関連会社に売却することとなった。やっと売却先が決まり、遊休財産の処分ができるとほっと胸をなででいるが、その売却金額の全額が医師会に入金となる訳ではなく、医師会側が旧病院、旧看護学校の撤去費用、残置物処理費、付帯工事費、また、各種の手続き費用をも負担することとなっている。会員からあずかっている大事な資金を我々理事会は守る必要があるため、医師会負担額が売却金額より増えてしまうことは厳につつしむ必要がある。今後は、交渉の窓口である堀税理士と密に連絡をとり、予定外の出費を負担すること無く売却金額内で撤去工事などを終え、期日内に無事セブンイレブン関連会社に引き渡せるよう、気を引き締めて活動していきたい。旧看護学校土地の売却に伴い、医師会事務局も移転を余儀なくされる。以前より耐震診断で問題ありとされた建物に事務局をおくことは忍びなく、もし、地震があり建物が損壊した場合、事務員の生命にかかわることなので早急に移転したいと考えていた。新しい移転先も見つかり安堵しているが、間借りであるため終の住処とはならないであろう。私見ではあるが、新年度早々には恒久的な医師会事務局を念頭に、場所、建物の規模や資金面を考える検討委員会を立ち上げたいと考えている。
 平成25年11月の公益法人改革に向け、去年12月の臨時総会で可決された新定款をもとに、堀税理士と司法書士により県に定款を提出、平成25年3月31日までには、許認可を受けたいと考えている。一昨年の県による医師会監査時には、公益法人を取得するに大きな問題は無いとのコメントを頂戴した。公益法人取得には総収入に対し公益目的事業比率が50%以上という規制が存在する。現医師会の収入は会員からの会費に頼っているのが現状である。新塩場の医師会の土地を整備し、賃貸駐車場としているがその収入はわずかである。会費収入、駐車場賃貸収入と総合健診に伴う経費を合算すれば、法律の規定にある事業比率が50%以上という規制をクリアーしているので、公益法人取得は可能であると考える。また、旧医師会病院、旧看護学校の土地を売却することとなり、その結果遊休財産が減り、公益法人取得にさらに有利な条件となった。今後、医師会の将来を見据え、また公益法人として幅広く医師会活動を財源の不安無く安心して実施していくために、新たな収入源を確保しなくてはならないかもしれない。引き続き公益法人取得という目標に向かい、関係機関、税理士、司法書士と協議し、実現させたいと考えている。いよいよ4月からあたらしい総合健診システムが開始される。24年度からは、市町村と実施医療機関である安房地域医療センターとの直接契約となる。医療センターには、優秀な健診スタッフが多数勤務しており、その実施には何の不安もないし、また、数多くの医師会会員も今まで通り理学的健診に協力することとなっている。再三述べているが、医師会は総合健診全般から手を引くわけではなく、種々の問題が生じたときには協力をおしまない体制にある。この2月には、各種健診委員会がひらかれ、種々の問題提起がなされた。新年度からも行政、実施医療機関、医師会で協議する場をもうけ、住民の健康維持のため、実施医療機関として施行しやすい健診方法、医師会や研究者にとって有意義な健診となるよう活動していきたい。その他の検討課題として、広報関連では、理事会活動を医師会ニュース以外に会員へ周知する新たな情報開示方法の検討、医師会ニュースの巻頭言の執筆者の拡大、会員からの投稿記事の募集。学術関連では、講演会の演者を外からの招聘ではなく、医師会会員から募集し、各分野での勉強会の開催などを考えている。
終わりに、医師会および理事会は、何のために存在し、何のために活動しているのか、会員の皆様と一緒に考え、一緒に行動していきたい。さらなる会員のご協力を。


巻頭言 Vol.48 No.1 2012 年頭初感

2012/01/10(火)

安房医師会会長 宮川 準

 新年明けましておめでとうございます。 世阿弥の能楽論を著した「風姿花伝」(角川ソフィア文庫)は示唆に富んだ文章が散見されます。芸能の世界にとどまらず、医療の世界にも通じるものがあるようです。
 内視鏡などの医療機器で抜群のシェアと技術力を誇るオリンパスがバブル期の株の売買で大きな損失を被り経営陣が不正経理を断行し、社会問題になりました。本来の会社の技術を活かした地道な経営から安易な紙切れの売買で利益をあげようとした「つけ」が回ってきたとしか思えません。 風姿花伝の冒頭に「この道に至らんと思はん者は、非道を行ずべからず」とあります。安房医師会も館山市湊の旧安房医師会病院・安房看護学校の跡地・建物の処分に取り掛かっています。本来の医療・保健業務からは隔絶した行為です。そのため、顧問税理士の紹介で昨夏にK氏を選任し、土地取引全般を委任いたしました。東日本大震災の影響で買い手の反応は鈍化しているようですが、売買契約の目途が立ち次第、臨時総会を開き機関決定をしたいと考えています。
 ほぼ月に1回開催されている学術講演会の講師の先生方がいつの間にか、私より年下になっています。若いドクターと接することで得ることが多いと感じています。医師になり数十年の老練であっても卒後5~6年の若い医師に劣ってはいないでしょうか?
「功入りたる名人が若い能楽者に劣ることがある。これ不審なり」との問いに、いかなる銘木も花の咲かぬ時の木を見れば、心は動かされないものであり、常に花を咲かせるように名人でも創意工夫が必要であると風姿花伝に書かれています。 最近の学術講演会の参加者が少なく講師の先生に失礼との思いから、歯科医師会・薬剤師会に参加を呼び掛けています。いかなる分野の講演でも得ることは多いと思います。また新薬の説明を兼ねた講演会は大袈裟ですが新薬開発の背景に医学の進歩を肌で感じることができ、大変に有意義であると思います。多くの安房医師会員の参加を期待しています。
 安房医師会は歴史のある医師会です。安房地域の医療・保健・福祉に貢献してまいりました。しかし、安房医師会病院の移譲・安房看護専門学校の閉校・総合健診からの撤退と、私が会長時代に先輩方が築きあげてきた財産を手放さざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。自身の非力に責任を痛感しています。安房医師会は今後も存続させていかなければなりません。
 平成25年の新公益法人取得にむけ定款を見直しているところです。この3月に役員改選が行われますが、この間の状況をよく把握されている役員の選出を望んでいます。「家、家にあらず、継ぐをもって家とす。人、人にあらず、知るをもって人とす」  本年もよろしくお願いいたします。


巻頭言 Vol.47 No.6 2011

2011/11/10(木)

安房地域における今後の特定健診について

安房医師会副会長 間宮 聰

 総合検診の実施主体であった安房医師会病院を太陽会に委譲したため、安房医師会は平成24年度からは総合検診事業に関する契約を解き、今後の総合検診は保険者(市町村)と検診事業者との直接契約に委ねたことについては、平成23年3月号の巻頭言で報告しました。これにより、医師会の会員に義務として協力していただいた理学的診査は終わりとなります。ご協力ありがとうございました。平成24年度からの総合検診事業は、安房の3市1町と太陽会 安房地域医療センターとの直接契約により行なわれることが決まりました。今後は、安房地域医療センターを中心に総合検診が行われるのだが、6ヶ月間、のべ200名の医師の確保は難しく、このため安房地域医療センターから会員に理学的診査への協力を依頼しているところです。もし余裕があり、ご都合がつく方は地域医療センターとの直接契約により、ご協力をお願いいたします。
 先日、館山市健康福祉部健康課より、館山市における特定健診の受診状況について報告があった。平成22年度の国保対象者(40~74歳)数は11.623人であり、特定健診受診者は3.817人で、受診率は32.8%と過去2年間と同様に低迷している。さらに、総合検診受診者の7割以上が高血圧、糖尿病、高脂血症などでかかりつけ医に通院していて、無駄が多い状況は以前から報告されている。また、総合検診のみでは今後の特定健診の受診率の向上は見込めず、受診率が低いとペナルティーとして後期医療への拠出金が課せられることもあり、今後の対策が検討されてきた。他の市町もおかれた状況は同じである。総合検診の検診事業者が変わっても、同じ内容なら総合検診の意義は少ないのではと悩んでいたところ、今回、特定検診の受診率の向上のために、総合検診を受けない住民に対して、特定健診と同等の内容の連絡票を活用することにより、館山市単独のモデル事業として行う構想が明らかにされ、安房医師会の協力が依頼された。現在、銚子市で行われている情報提供書を参考にして、同様の方法で協力可能な安房医師会の会員にお願いしたいとのことだった。会員は、連絡票を持参した患者の自院の検査結果をこの連絡票に書き込み、情報提供書として安房医師会に提出する。この情報提供書を安房医師会で取りまとめ、館山市に報告することで、会員には診療情報提供料が、医師会には情報処理料が支払われることになる予定である。この情報提供書により特定健診の受診とみなされるとのことだった。これなら受診者は利便性が良いので受診するだろうし、血液検査の重複も避けられ、無駄も省かれると思う。特定健診の受診率も大幅に向上するだろう。他の市町もこれに賛同していただき、特定健診制度の下での、安房地域の新しい検診体制をつくっていただきたい。この新しい検診制度の確立のために、安房医師会も一致団結し、協力していくべきと考える。


巻頭言 Vol.47 No.5 2011

2011/09/10(土)

人組みは人の心組み

安房医師会会長 宮川 準

 安房地域の総合検診のルーツは1968年に始まった胃部集団検診で、安房郡市全域の40歳以上を対象に巡回方式で実施されてきたものです。間接撮影に始まって直接撮影、内視鏡、生検、手術、術後の定期検査にいたるまで一貫した管理方式を採用したことから当時の消化器学会で「安房方式」として高い評価を受けました。また、現在まで行われてきた総合検診は我々の先輩方(故鈴木勝先生・梅園忠先生)が岩手県の沢内村(当時)の検診の手法を参考にして独自に発展させたものであります。当初、検診の目的は普段、医療機関を訪れない住民の健康チェックを行うことにありました。
 しかし、40年あまりの年月は検診事業に様々な問題をもたらしてきました。受診率の拘泥・医療機関受診中の検診者の取り扱い・検査項目の変遷などですが、最大の問題は検診の実施主体である安房医師会病院を失ったことです。 2008年の経営移譲後も、太陽会理事長の亀田信介先生に安房医師会・理事に留任していただきました。行政から検査事業の委託を受けた安房医師会と総合検診の実施主体である安房地域医療センターとの連携を円滑にすることが主な目的でした。しかし、多くの歪みが生じた結果、すでに報じられたように、2012年度から総合検診事業の委託契約を締結しないことを決定いたしました。
 来年度の検診事業の委託契約を結んだ安房地域医療センターの水谷正彦院長から6月29日付けで安房医師会に対して、総合検診の実施にあたり、協力依頼の文書を受理いたしました。前述の総合検診の歴史に鑑み、協力要請に対して安房医師会としましても否とする理由はなく側面から協力することで理事会決定したところであります。
 1300年の歴史をもつ法隆寺は「ひのき]で支えられています。ひのきはその生育場所などにより性質が異なり、このクセを熟知して組合わせないと歪んだ建物になってしまうそうです。木組みを巧みに行なうことで、1000年もの風雪に耐える建造物が完成するのです。再建にかかわった宮大工の棟梁に伝わる口伝に、「ひのきのクセを知り木組みをし、木組みをする大工の人のクセを知り人組みをし、人の心を組む」とあります。(法隆寺を支えた水・NHKブックス・1978年・西岡常一)安房医師会には長い間、総合検診にかかわってきた歴史があります。検診内容の吟味・実施にはこれまで多くの方々がかかわってこられました。これからも総合検診にかかわる多くの方の「人組み・心組み」を期待しているところです。現在、検診担当理事は青柳和美理事であります。宮大工の棟梁に擬え、類稀なるリーダーシップを発揮されることを望んでいます。そして関係各位の更なるご協力をお願いする次第です。


巻頭言 Vol.47 No.4 2011

2011/07/10(日)

安房医師会副会長 原 徹

 未曾有の大震災と経済の悪化、さらには政情不安など厳しい現実ばかりが目に付く毎日ですが今朝(6月6日)の新聞記事には久し振りに明るい希望が湧きました。その内容は『反物質』を1,000秒(約16分)閉じ込める事に成功したとの報告でした。『反物質』と言っても何の事だか良く解らず、私自身もダン・ブラウンの小説“ANGELS&DEMONS(天使と悪魔)”を読むまでは気にも留めなかったものです。
 この小説は既に映画化され観られた方も多いと思いますが、その舞台の一つとなったCERN(Conseil Europeen pour la Recherche Nucleaire ; 欧州原子核研究機構)での成功が報じられていました。この施設には全周が27kmにも及ぶ巨大な装置である大型ハドロン衝突型加速器Large Electron-Positron Collider(LEP)が設置されており、スイス・フランス国境地帯の地下100mの場所で実験が行われています。その装置を使い、陽子を超伝導加速空洞により陽子ビームを7TeV(10の12乗 電子ボルト)まで加速し、8テスラ強の超伝導電磁石でその軌道を曲げて円形の周回軌道に乗せ、陽子と陽子を正面衝突させる。 即ち14TeVの衝突エネルギーを持って反物質を作り出しているとの事です。
 ところで『反物質』とは電荷が正負逆転した物質のことであり、それ以外の性質(質量、スピン)などは通常の物質と全く同じ物質です。我々が物理学で学んだ物質の基本である電子、陽子、中性子に対して陽電子、反陽子、反中性子といった反物質が存在しています。質量/エネルギー変換式、はアインシュタインによって解き明かされた原理ですが、逆に真空中でエネルギー密度を高めると逆変換が起こり、エネルギーから質量を持った物質が生成されることになります。この際、物質と反物質は1/2の確率で同数出現しますが、これを得る為には先程の陽子と陽子を超高速(陽子を光速;秒速約30万kmの99%以上)に加速し、衝突させ巨大なエネルギーを得る事が必要となります。この加速を得る為に真空チューブの中で、起電磁石等を使って陽子を加速させる訳です。真空チューブはリング状になっており、そのチューブの周りを磁気コイルが巻いています。これが陽子シンクロトンの構造で、磁気コイルによって生じた磁場によってローレンツカが発生し円軌道を描く様に方向転換をすることができます。こうして全周27kmに及ぶ円軌道の中で、繰り返し加速させて行くと果てしなく光速に近づきます。これが粒子加速器の原理です。
 ところでこのようなことが自然界で起こったのは“ビッグバン”の時で、同数で出現した物質、反物質が再び反応して巨大なエネルギーとなりました。この物質と反物質が反応することを『対消滅』といい発生エネルギーは、質量に等しく、単位質量当たりのエネルギー(エネルギー密度)は理論上最大となります。要は原子力のエネルギーよりも格段に効率よくエネルギーを得る事が可能な理論です。核分裂での質量欠損は質量の一部が欠損してそれがエネルギーになるが、対消滅の場合反応する物質・反物質の質量全体がエネルギーとなるため、比べものにならないくらい大量のエネルギーが放出されます。具体的に核分裂では核燃料の質量のおよそ0.1%、核融合ではおよそ1%がエネルギーに転換されるのに対し、反物質を燃料として使えばその大部分がエネルギーに転換されることになります。どのくらいかというと1gの物質と1gの反物質を対消滅させた場合、約180兆J(ジュール)程度のエネルギーが得られる計算となり、上手く平和利用すれば現存のどのエネルギー源よりも高効率でエネルギーを得る事が可能となります。具体的には1gの反物質が対消滅することで得られるエネルギーは広島で使用された原爆と同等のエネルギーを発生すると言われています。これを小説の中での様に武器として使う程人間は愚かな生命体ではないでしょうが凄まじい熱量となることは間違いありません。
 ところで理論上では同数が反応したはずの物質と反物質ですが、今現在の地球周辺には物質しか残っておらず、その理由は未だ分かっていない宇宙の謎とされています。要は現状では反物質を自然界から得る事は出来ず、これを得るには多大なエネルギーを要することになります。この為ウランなどの自然界に在る放射線物質を利活用する核融合、核分裂とは異なるのが実情です。ただし太陽光エネルギーを用いて反物質を作成し保存する、宇宙船の動力源として少量で賄う事ができる等、将来有望なエネルギー源になりうると期待されています。
 今回の巻頭言では明るい話をお届けしようと思いました。人類はこれまでも大きな災害を克服し、叡智を集め進歩してきました。しかし原発の事故はこの進歩が齎した新たな災害とも言えます。我々の世代では鉄腕アトムが憧れであり、幸福な未来を目指してきました。然し、それを充分に制御し、安全に使用することがいかに困難であるかも今回知る事が出来ました。安房地域3市1町も観光などの3次産業だけでなく、農業・漁業等の1次産業にも失速が見られています。辛い現状だけを視るのでは無く、輝く未来の情報を少しでも提供する事が出来たなら幸いです。


巻頭言 Vol.47 No.3 2011

2011/05/10(火)

安房医師会理事 小嶋 良宏

 このたびの震災により、被災された皆様、その御家族の方々に心よりお見舞い申し上げるとともに、犠牲になられた方々とご遺族の皆様に対して、深くお悔やみを申し上げます。
 震災後数日たったある日の外来、「今日、おれは先生の顔を見る事ができて、涙が出るわ。目が見えるように治してもらったおかげで娘に連絡を取る事ができたんだ。」聞けば、東北地方に嫁いでる娘と、震災後3日間連絡が取れず、大変心配していたそうだ。やっと連絡が取れ、無事の知らせを聞いたときの彼の安堵と喜びは書くまでもないであろう。
 震災直後より、被災者の為に自分には何かできるであろうか考えていた。現地に出向いての直接支援、衣料品や食料品などの救援物資、義援金といった間接的支援?ありとあらゆる事が頭の中をよぎった。
 大津波警報が発令された海岸近くに居りながらも、幸いにも直接被害を受けずに済んだ眼科医としての私には何が?専門分野によって支援の方法に違いがあるのは当然の事である。法医学に携わる物はその分野、外科、救急医学、内科、精神医学、在宅医療、各専門分野により支援方法は多岐にわたる。私の専門分野では直接の支援はできないとなかばあきらめていたが、先の患者さんとの会話を通して思いを新たにした。今この地にあっても、病気を抱え日々の暮らしに支障をきたしている目の前の人々の健康の回復に尽力し、社会生活に復帰する事の手助けをする事が、間接的に被災者支援、しいては復興につながるのだと。

「水と安全はただである」
 数十年前、イザヤベンダサン氏が「日本人とユダヤ人」という本で書いた一文である。多くの人々の意識下にままある価値観を表す象徴的な言葉であった。蛇口をひねればきれいな水が出てくるのに慣れてしまっている今、レストランに行けばまっさきに水がダダで提供されるのは日本だけであり、またそれをあたりまえだと思っていた。今回の大震災では、今なお断水世帯が20数万件あり、想像を絶する不自由な生活を強いられている。さらに追い討ちをかけて原発事故による水道水の汚染が起きてしまった。その結果、各地で店頭にペットボトル入りの水が無くなってしまった現状は言うまでもない。
 発電不足による度重なる停電が起き、節電のCMが流れ、この夏の電力不足対策が声高らかにちまたに流れている。統計によると日本の電力消費量はアメリカ、中国に次いで世界で3番目に多いということだ。我が身を省みると、今まで必要以上に電気を浪費してきた。
 スイッチを入れれば家の照明が付き、街灯がついた明るい退を歩き、満艦飾のネオンに心が浮き立つ。 そのような生活を普通だと思ってきた。
 真冬なのに半袖で過ごせるくらい暖かい室内。思わずセーターをきたくなるような冷房の効いた部屋。使わない部屋なのに点灯している照明。 PCはつけっぱなし。自責の念に駆られる。節約とケチは違うという言葉を、幼少時良く母にいわれていたのを思い出す今日この頃。必要ならば使う、必要無ければ使わない。 Mottainaiというロゴをごぞんじであろうか?もともとは、ゴミ削減、再利用、再資源化に資源への尊敬がこめられている言葉である。
 今回の震災で、安全も水もただでないと言う事を体験し、学んだ。気がついた事は沢山ある。これを契機に、今あるものへの感謝を忘れず、多少の事は我慢し、多くの資源の節約をしようではないか。
 国家には97兆円という巨額となってしまった予算の中から無駄を省き、より多く復興費用を捻出することを考えていただく事を切望する。
 自らは、自分ができる身近なところからの支援への取り組みに尽力したい。 一日でも早い復興を、祈るばかりである。


巻頭言 Vol.47 No.2 2011

2011/03/10(木)

総合健診のこれからについて

安房医師会会長 間宮 聰

 総合検診の実施主体であった安房医師会病院を太陽会に委譲してから3年が経ち、これからの総合検診のあり方について検討する必要があるとの意見から、地域医療担当の青柳和美理事、小嶋良宏医師会専務理事、そして副会長の間宮で3市1町の実務者との会議を重ねた。
その結果、総合検診の受診者の7割以上が高血圧症、高脂血症、糖尿病などで、かかりつけ医に通院していて無駄が多いこと、市町村合併後は検診会場が集約されたため、受診者の利便性が悪くなったこと、平成20年から特定健診制度が開始され、検診の内容が簡素化されたこと、受診率を65%以上にするよう指導されているが、現在は30数%であり受診率が低いこと、受診率が低いとペナルティーとして後期医療への拠出金が課せられる可能性のあること、総合検診のみでは今後の受診率の増加は見込めないなどの問題が出された。
 以前から、総合検診の意義は少なく見直すべきであるとの指摘を会員からいただいてはいたが、この総合検診をすることにより安房医師会病院の経営赤字の補填のために続けられてきた。会員からの貴重なご意見に耳を傾けずに申し訳なかったと反省している。これらの問題をふまえて「今後の総合検診のあり方について」を検討するために、宮川会長の諮問により総合検診検討委員会が立ち上げられ、清川恒委員長のもとで検討を行った。
 その結果「現在の特定健康診査制度のもとでは、安房医師会が検診主体となるべき医療機関を持たないことから、総合検診事業に関する契約を解くことになり、今後の総合検診は保険者(市町村)と検診事業者との直接契約に委ね、平成24年度からは安房医師会は保険者との契約はしない」こととなった。
 今後は保険者である市町村が検診事業者を選定し、検診事業者と直接契約し、総合検診を進めていくことになる。安房医師会が会員に義務として協力いただいた総合検診の理学的診査については、今年度かぎりで平成24年度からなくなる。検診事業者から、もし理学的診査の協力依頼があれば賛同する医療機関が検診事業者との個別の契約を行い協力することになるものと思われる。また、保険者(市町村)が検診受診率を上げるために個別(施設)検診の導入を強く希望しているので、医師会として協力していくべきではないかと個人的には考える。
 がん検診(喉頭がん、肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、子宮がん、前立腺がん)などの検診の体制も保険者(市町村)、医師会、検診事業者の間で十分協議して一つ一つ見直さねばならない。検診事業者から報告されたデータを保険者がまとめ、それに対して保険者から医師会が意見を求められれば、地域医療の一端を担うわれわれ医師会はこれに応えていくべきであろう。平成24年度からの特定健診、がん検診の体制を確立するために、これから1年が大切な時間となる。